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2024年2月27日 (火)

サブテレニアンプロデュース ガザモノローグ2023  The Gaza Monologues 2023

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「ガザ・モノローグ」は、パレスチナ自治区ガザ地区で大きな紛争と苦難を経験した人々の声と経験を紹介する演劇プロジェクトです。2010年にパレスチナのラマッラーにあるアシュタール劇場とイスラエルのハイファにあるアル・ミダーン劇場の共同プロジェクトとして、進行中のイスラエル・パレスチナ紛争とガザの人道危機への抵抗の表現として産まれました。


何年にもわたって、「ガザ・モノローグ」は進化を続けており、変化する現場の現実を反映するために新しいモノローグが追加されています。

「ガザ・モノローグ2023」は2023年のパレスチナ連帯の日(11月29日)に世界中の劇場で上演されました。日本ではデモの中で朗読されましたが、劇場での公演はありませんでした。

「ガザ・モノローグ」に共鳴したサブテレニアンは、パレスチナ連帯に加わりたいと考え、テキストを翻訳し、三人の俳優による朗読の公演を行いました。

You Tubeに全編をアップしていますので、ぜひご覧ください。
The Gaza Monologues 2023 サブテレニアンプロデュース ガザモノローグ 


アフタートークには『パレスチナ/イスラエル論』の著者で東京経済大学教授の早尾貴紀さんをゲストにむかえました。早尾さんは「通常の理解をはるかに超える、理性それ自体を無化するような暴力を、同時代を生きる我々が、それでも想像力を働かせ理解することが問われている」と語りました。また、パレスチナでの滞在で出会った詩人サーミ・アイ・カシムとの思い出に触れ、政治や抵抗の詩に節をつけて歌うことが日常であることを語ってくださいました。政治、文化、日常が近づくような試みを行う、サブテレニアンのような取り組みを応援したいと話していただきました。
(さたけれいこ)

The Gaza Monologues 2023 at SUBTERRANEAN
2024.2.18
Text/アシュタールシアター ASHTAR THEATRE
翻訳・構成・演出/赤井康弘 AKAI Yasuhiro
出演/葉月結子 HADUKI Yuko 矢内文章(アトリエセンターフォワード) YANAI Bunshou(ATLIER CENTRE FORWARD)赤松由美(コニエレニ) AKAMATSU Yumi(koniereni)
照明/麗乃(あをともして) RENO(AWOTOMOSHITE)
After talk/早尾貴紀 HAYAO Takanori
企画・製作/赤井康弘 AKAI Yasuhiro
主催/SUBTERRANEAN

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2024年1月27日 (土)

劇団허리(HURY)「サド侯爵の演出のもとにシャラントン保護施設の演劇グループによって上演されたジャン・ポール・マラーの迫害と暗殺」(マラー/サド)

板橋ビューネ2023/2024参加作品
劇団허리(HURY)「サド侯爵の演出のもとにシャラントン保護施設の演劇グループによって上演されたジャン・ポール・マラーの迫害と暗殺」(マラー/サド)
2024年1月20日・21日 (@ サブテレニアン)
原作/ペーター・ヴァイス 翻案・演出/ユ・ジュンシク 作曲・舞台監督/ユ・ヒオ 舞台美術/ユ・ジュンシク メイク/イ・リン
配役:
ジャン・ポール・マラー/イ・キョンミン シャルロット・コルデー/ユ・ヒーリー ポルポシュ(バリトン)/ジュン・テジュン シモンヌ・エブラール/キム・ジキョン デュペレ/イ・テグワン ロッシニョール(ソプラノ)/キム・ヒジュン ジャック・ルー/キム・ハクジュ クールミエ/チョ・サンウ 看護尼/イ・インギュ
劇団허리(HURY):1990年創立。韓国・議政府を拠点に「チャンドン劇場」「アートスペース・フセオサ」を運営。韓国の断絶の克服、国家による暴力、自然を通した人生などの物語を中心に創作する韓国の劇団である。

上演の一部をYOUTUBEで配信しています。
허리「マラー/サド」 『あなたのための行進曲』

허리「マラー/サド」劇中歌 

허리「マラー/サド」劇中歌ラスト


<公演後のアフタートークより>
1月20日・21日 ユ・ジュンシク(劇団HURY)・赤井康弘(サブテレニアン)・桔川純子(通訳)

赤井:劇団HURYは、ソウルと議政府の二拠点に劇場を構え、活動していらっしゃいます。なぜそのような形態をとっていらっしゃるのですか?

ユ:韓国の文化芸術はソウルに集中しています。ソウルに足をおかないと、継続することは難しいです。議政府市は、DMZ、北朝鮮との国境に近いところにあります。韓国においては、南北の分断は大きな問題です。分断は国民に害を与えています。芸術家が被っている害もとても大きなものです。国家は北朝鮮の脅威を煽ってきますが、その脅威に騙されるな、という思いで演劇をしています。
 劇団名の「허리」「HURY」は韓国語で「腰」という意味です。議政府市は韓国の腰にあたります。南北の分断で韓国はいわば腰を切られた状態にあるといえますが、再生を願って活動をしています。
 再生をして、和合をしたい。家庭も、恋愛も、民族も、再び出会って和合をすることは大事なことです。
 そうした活動も、ソウルで公演してこそ運営ができています。私は、人に恵まれているので、ソウルでも活動ができています。


赤井:「マラー/サド」はフランス革命を背景にして全体主義のマラー、個人主義のサドという対立がありますが、ジュンシクさんはどちらの立場をとりたいと思っていらっしゃいますか?

ユ:私はサドを演じましたが、立場としてはマラーを支持しています。だから、演じる時に矛盾を感じましたね(笑)


赤井:劇中では、韓国の光州事件で歌われた民衆歌が歌われましたね。

ユ:今回の「マラー/サド」は韓国を舞台に翻案して、四つの次元があるといえます。一つは劇中劇の主題である、フランス革命でマラーが暗殺された事件の次元、そして、それをサド侯爵が劇として取り上げたという設定の15年後の次元、ペーター・ヴァイスが戯曲を書いた次元、そして舞台としてとりあげた韓国の次元です。ラストの場面ではナポレオンの肖像が掲げられましたが、それはユン・ソンニュル大統領
にも、岸田首相にも置き換え可能です。


赤井:韓国で上演した時はどのように受け止められましたか。

ユ:意義や意味が前面に出るものは面白くないです。最初は笑っていた観客も、だんだん何かに気付いていく、という私たちが望んでいた感想が返ってきました。


赤井:日本や世界でも共通するものはありますか?

ユ:あると思います。公演のために日本に来て、何日か過ごしてみて、日本はとても平和的な感じがしました。一緒に来た仲間とも「静かでいいね」と話していました。昔は国家が目に見える形で民衆を弾圧していましたが、いまは、メディアや教育を使って支配しています。「静かでいい」ということではなく、支配されているということではないでしょうか。教育は本当に重要です。

ーーー観客よりーーーー

質問:「マラー/サド」は映画では見たことがあるのですが、演劇の上演を見たのははじめてです。(「マラー/サド」1967年、ピーター・ブルック監督)韓国では上演されているのですか?

ユ:国家が個人に与える影響は本当に大きいです。とくに韓国でも去年から国家の圧力がとても大きくなっています。こんな時にこのような芝居を打つ意義は大きいと思っています。

質問:劇の最後でジャック・ルー(元神父・社会主義者)が叫んでいた言葉を教えてください

ユ:「あなたは何をみたのか あなたはいつ見るのか」という言葉です。ペーター・ヴァイスの意図があらわれている言葉だと思います。

質問:精神病院が舞台でしたが、患者役の役者さんそれぞれには、韓国の現代社会を想定した背景があるのでしょうか。

ユ:はい。それぞれの役に設定があります。俳優たちは、それぞれ役の設定を理解して演技しています。

ーーーーーーーーーーーーーー

公演を通じて、交流を深めたいというお互いの願いが合致して今回の公演が実現しました。今後も交流を続けたいと切に願っています。
(サブテレニアン さたけ)



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2023年4月10日 (月)

インドレニシアター(ネパール)『胎生』 永守輝如『釋蓮』

Marginal Man15では、ネパールよりインドレニシアターを迎えて、東京在住の永守輝如と舞踏のダブルビル公演を行いました。


永守輝如は『釋蓮』を上演。永守氏自身のお母様の死と向かい合ったという作品。遺灰をイメージさせるような白い粉が舞台に捲かれ、身体がまみれていく姿が印象的でした。

 

インドレニシアターは、ネパールのポカラを拠点に、普段は演劇を行っているとのことですが、日本の舞踏に影響を受け、舞踏も演じるようになったとのこと。今回の作品『胎生』は3人の舞踏の要素が入ったパフォーマンスといった作品でした。大きく広げた両手を素早く閉じる動作や、腹部から湧き上がってきて喉を震わせる甲高い声など、特徴的な要素にあふれていました。それぞれについてお話を伺うと、原点となるイメージがあるそうで、天と地、時間、瞑想など、源泉の違いを感じました。

永守輝如『釋蓮』
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インドレニシアター『胎生』

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2023.04.08sat 17:00
2023.04.09sun 17:00

出演/インドレニシアター(ネパール)、永守輝如(日本)

技術/豊川涼太
企画・製作/赤井康弘
主催/サブテレニアン


インドレニシアター「胎生/Embryonic」


木はどのようにして生きているのか? なぜ山は不変なのか? なぜ風は吹き続けるのか? なぜ花は無我夢中で咲くのか? 私たちの心の中には、毎日100万もの思考が生まれていますが、それらはほとんど意識されることはありません。人は日常の小さなことに戸惑い、人生の美しい面を見逃してしまうのです。この劇は、観客を川のリズムに乗せ、花のように踊り、雲のように浮かばせるでしょう。
インドレニシアターは、2019年、ケダー・ラト・ポーデルを中心に、ネパール・ポカラで設立されました。ネパールを中心にイタリアや韓国等海外でも積極的に公演を行なっています。今回は初来日公演。


永守輝如「釋蓮」


俳優、舞踏家。
映像、演劇、人形劇などに出演しています。
WOWOW「Tokyo Vice」、Netflix「Giri / Haji」、サイマル演劇団+コニエレニ「コスモス/KOSMOS」日本/ポーランド公演、種のアトリエ「モモ」「竹取物語」台湾公演、グラシオブルオ「からすたろう」タイ公演などに出演。
舞踏は大野一雄舞踏研究所で大野慶人に師事。イタリア、オランダ、ポーランド、インドでソロ舞踏公演。日本では北海道舞踏フェスティバル、アジアトライ秋田、無国籍ソロダンスコレクション、板橋舞踏祭などに出演。

 

2023年2月11日 (土)

YouTubeチャンネル「アニメOPっポイヤツ」

先日、YouTubeチャンネル「アニメOPっポイヤツ」の撮影でサブテレニアンを使っていただきました。
「ポイヤツら」はパントマイムご出身のメンバーで構成された集団です。
メンバーのかきもとUさんは、サブテレニアンで舞台作品を発表されたこともあります。


撮影された動画はコチラ!
Pooccrt

メイキング映像もあります!
Pomaking

8月には舞台作品も発表されるそうです。楽しみですね。

Potheatre

2023年1月29日 (日)

サブテレニアンプロデュース「(仮)シオラン試作」​ワークショップオーディション

サブテレニアンプロデュース「(仮)シオラン試作」​ワークショップオーディションが1月20日、21日と2日間にわたって開催されました。16名の方にご参加いただきました。参加いただいた方から出演者を選考し、7月に上演いたします。楽しみにお待ちください。

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サブテレニアンプロデュース
「(仮)シオラン試作」
原作/エミール・シオラン
構成・演出/豊川涼太(街の星座)

 

2023年7月27日〜7月30日
会場/サブテレニアン

企画・製作/赤井康弘

​主催/サブテレニアン

シオランのテキストから感じる、生と現実への絶対的な否認、
それは私達には劇薬であるかもしれない。
しかし毒とはまた薬でもあることはその語源(φάρμακον=pharmakon)からも明らかである。

「彼のテキストは合理化する現代社会へのアンチテーゼとなりうる!」
と言い切ることはできない。
そのような現実への処方箋として彼のテキストを利用することは、また別の罠にハマることを意味する。
私たちにできることは、彼の言葉を拝借し、俳優の身体とごちゃ混ぜにして作られたキメラを、観客の眼前に晒すこと。
それ以上でもそれ以下でもないのだろう。

WSオーディションでは、上演を音楽と捉え、互いの相互作用によるポリフォニックな作品の形を目指すこと。
また、楽器としての俳優の身体性を考える機会になれば良いと思っています。

エミール・シオラン/ルーマニア生まれの作家、思想家。若年期のエクスタシー体験と、メランコリー、鬱、不眠など、生涯にわたる精神的苦悩をもとに特異なニヒリズム的思索を展開した。1911年生まれ。1937年パリに移り住み、後年はフランス語で数多くの著作を残した。「私たちはある国に住むのではない。ある国語に住むのだ。祖国とは国語だ。それ以外の何ものでもない」などの名言を残した。著書に『絶望のきわみで』『思想の黄昏』『告白と呪詛』『悪しき造物主』ほか多数。

豊川涼太/街の星座、主宰。演出家、劇作家。

青森県出身。高校在学中に演劇、劇作活動をスタート。2017年に「街の星座」を旗揚げ。

2019年、「銀河鉄道の夜」(原作:宮沢賢治)で日韓ツアーを敢行。韓国・礼山、礼唐国際大学演劇祭特別賞受賞。

丁寧な会話劇から身体性に溢れた作品まで幅広い作風で、音楽的でパーカッシブな演出を行う。

2018年2月17日 (土)

サブテレニアンプロデュース 「洗濯室」

サブテレニアンプロデュース 「洗濯室」

Sentakushitsu

2月8日(木)20時

2月9日(金)20時

2月10日(土)15時/19時

2月11日(日祝)15時

2月12日(祝)15時

料金/一般3000円 学生2000円

「洗濯室」は韓国軍部隊の洗濯室で繰り広げられる事件を綴った物語として、2014年韓国の軍部隊で実際に起きた「ユン一等兵死亡事件」をモチーフとして作られた作品である。

 

「秋の晴れた日の朝」の整然とした「洗濯室」という場所は、軍人たちに暗黙的に起こる暴力の空間であり、逆説的な詩空間の概念だ。

キャスト/アフリカン寺越 小森理(THEATRE ATMAN) 四宮章吾 生野和人(ハンザキ) 田村義明(荒馬の旅) 羽生直人 山本啓介

作/ファン・スンウク

演出/イム・セリュン

舞台美術/よこたたかお 照明/佐瀬三恵子(未定ノ類)音響/山田尚古(未定ノ類) 翻訳・通訳/大久保賢一 宣伝美術/伊東祐輔(おしゃれ紳士) 制作/赤井康弘 製作/サブテレニアン

ファン・スンウク/ 1986年蔚山生まれ 中央大学校 演劇学科 卒業 韓国芸術総合学校 演劇院 劇作家MFA 在学中 <活動> '15 「友様たち」/作・演出 ’15 DMZ 平和芸術祭/構成作家 ’16 Play Teaplay/ヘマ・ドラマカンパニー/作・演出 '16 「洗濯室」/アルコ小劇場/作家 '16 「オンオフ」/ヨヌ小劇場/作・演出 <受賞> '15 第18回新作戯曲フェスティバル当選「オンオフ」 '16 朝鮮日報新春文芸当選「洗濯室」 

イム・セリュン/ 1973年、ソウル生まれ。ソウル・大学路でスタッフとして活動を始め、2009年、劇団Daを旗揚げ。  校内暴力とトラウマに関する「大人の時間」、光州事件とその後をつづった「父と暮らせば」等の代表作を上演し、使命感のある歴史意識を込めた作品を上演する演出家として、評論家からの注目を受けている。  2013年以降、日本との交流を始め、「F.+2」「ゴルゴン」等の日本の作品を大学路で上演した。  〈受賞〉 2007年 100万ウォン演劇祭 最優秀作品賞 2011年 韓国文化芸術委員会次世代演出家3人選定 2014年 ソウル演

2016年8月30日 (火)

板橋ビューネ2016参加劇団インタビュー:テラ・アーツ・ファクトリー「演劇が社会とその共同体に生きる者のある種の鏡とするなら、絶えず別の表情、姿を映し出す鏡であるべきだと思います。」

板橋ビューネ2016「ナンセンス」(http://itabashi-buhne.jimdo.com/)に参加する劇団に、劇団の軌跡や、みどころについて、別冊サブテレニアンがインタビューをいたしました。おのおのの劇団の魅力に気付かされる点が数多くありました。ぜひご一読ください。

テラ・アーツ・ファクトリー「 演劇が社会とその共同体に生きる者のある種の鏡とするなら、絶えず別の表情、姿を映し出す鏡であるべきだと思います。

板橋ビューネ2016:テラ・アーツ・ファクトリー『三人姉妹 vol.1』(@東京・サブテレニアン:9月29日19:30~/30日14:00,19:30/10月1日14:00,19:30/2日14:00)

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『恋 其ノ参』(2016)撮影:石澤知絵子

---このインタビューにお答えいただく方のお名前と劇団の中での役割を教えてください。

 

A 代表の林英樹です。

 

 

---劇団のメンバー構成、人数、役割などを教えてください。

 

林 劇団体制を取っておりませんので固定したメンバーというのは現時点ではいないのですが、長く関わっている人が多いです。最長は現在の団体の前身の劇団からの滝康弘で38年、彼は知的な面での強力なブレーンです。横山、井口とは14、5年の付き合いになります。今回の舞台では日常部分と非日常身体、双方を背負っております。若林、関山、加藤、長尾はワークショップからの付き合いで10年~5年となります。

 

 

---一番最初に上演した作品について教えてください。

 

林 『サバイバル・コロニー』(1985年、江東文化センター大ホール)、東京アートセレブレーションというフェスティバルで勅使川原三郎や岸田事務所+楽天団(『恋』上演)、劇団解体社、海外の劇団などが参加しておりました。

 

 

---劇団の代表作について教えてください。

 

林 『メタアイランド』、『CATALY』、『デズデモーナ』、『ノラ』シリーズ、『アンチゴネー/血』、『ジュリエット/灰』、『ヒロコ』、『最後の炎』、『マテリアル/糸地獄』。

 

 

---思い出深い公演がありましたら教えてください。

 

林 『カサンドラ』(1999)公演。公演中止になりました。それがきっかけで濃密な集団作業の必要性を感じ、2000年代に某専門学校で教えてました元教え子たちと10年近く集団創作を行いました。

 『カサンドラ』はそれまで10年ほどヨーロッパに出かけて得た経験、特に冷戦崩壊と同時に始まったユーゴスラビア内戦と内戦を契機としたヨーロッパ演劇人の様々な活動に刺激を受け、戦争をテーマとしたギリシア劇と現在の戦争を対置させる構造の作品をめざしました。プロデュース公演として集めた俳優たちとの作業は困難を極め、結局、公演までたどり着くことは出来ませんでした。その失敗と挫折が深く影響し、その後の活動の基盤となっております。

 

 

---プロデュース公演とのことですが、どのような集団だったのですか。外国の方もいらっしゃったのですか。

 

林 小劇場から新劇まで、20代~50代まで全部で40名の俳優によるプロダクションです。カナダ人も一人いました。

 

 

---その時の経験があって、いまがあるのですね。劇団の旗揚げから現在まで、思い出深いエピソードがあれば教えてください。

 

林 『デズデモーナ』ペルー公演(1996)。公演終了直後に日本大使館占拠事件があり楽屋見舞いに来てくださった青木大使や歓迎会を開いてくださった日系人の方たち多数が人質になったこと。タイミングが少しずれていたら私たちもそこにいた可能性があった。

 『デズデモーナ』クロアチア公演(1999)。この公演は日本人パフォーマー1名、残りの俳優・パフォーマーは全てクロアチア人でしたが、丁度、コソボ紛争が始まり、NATO空軍機がユーゴ(セルビア)に爆撃に行く空路の途上に開催都市があり、参加のフェスティバル自体が中止に追い込まれました。しかし、現地メンバーがこういう時こそやるべきと頑張ってくれて、かなり苦闘しましたが結局、実現いたしました。
 
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『デズデモーナ』(2014)撮影:森信英 
 
---板橋ビューネ2016に参加した理由を教えてください。

 
林 以前からサブテレニアンで公演をしたいと考えていたところ丁度タイミングが合った、ということです。

 
 
---ありがとうございます。今回のテーマ「ナンセンス」について、感じたことを教えてください。


 
林 今回の作品がこのテーマに合っているかどうか迷いましたが、大きな枠組で戦後日本の国家レベルの物語をナンセンスと捉えてみると戦前と戦後の非断絶をテーマとしたこの作品と入れ子構造を作ることが出来るのではないかと考えました。私たちが生きる時間、生きてきた時間は戦後日本に属するわけですが、この作品は「平和国家」、「戦前とは断絶した民主国家」という私たちの思いこみ、想念の物語に対してその固定観念を打ち砕く批判性を持っている、少なくとも疑問符を提示するための応答を試みているテクストであると考えました。演劇が社会とその共同体に生きる者のある種の鏡とするなら、その鏡は同語反復であってはならない。絶えず別の表情、姿を映し出す鏡であるべきだと思います。この作品を通して戦時と戦後の断絶を個人レベルから見ると何が変化したのか、あるいは変化しなかったのかが表出されていて、同時に現在、保守政治家などによって物語化されつつある「戦後レジーム」なる言説を異化する、つまり物語を解体する(無意味化/ナンセンス)ような、ある種の亀裂を生みだしうるテクストと思えたのです。
 
 
---興味深いお話です。今回のみどころを教えてください。


 
林 時間を主題にしています。

 日常の会話部分と非日常身体との対置により、私たちの存在を根拠づけている「人間性」とその根拠となる文明、特に近代文明の中で人間の自然性の喪失、日常からの死の消失を反映する身体の様相を批評対象とし、同時に非日常身体によって構成される時間軸の提出によって過去、記憶ということで成立する個人幻想の解体を内包した舞台になると思います。

  
  
---好きな音楽、本、人物など、演劇以外の分野で影響を受けたもの(人物)がありましたら教えてください。
 
林 ピンクフロイド、ディープ・パープル、ボードレール、ランボー。

 
 
---昨今、日本でおきていることで気になることは何かありますか。

 
林 人が壊れつつある。そんな中、1936年ベルリンオリンピック、1940年幻の東京オリンピックを想起させる国威発揚のオリンピックが4年後にあるが、その間に壊れかけた人間を絆、団結という繰り返し使われてきた薄っぺらな精神の抑圧構造でまとめて行こうとする勢力が政治家、財界、マスコミなどを支配しつつあるのが不気味。ただただ今の日本は不気味です。

 
 
---昨今、韓国でおきていることで気になることは何かありますか。

 
林 演劇に対する検閲。パク・グニョン氏の作品の排除に象徴。

 
 
---パク・グニョンさんは、劇団コルモッキルの方ですか。助成金の辞退を強いられたり、国立伝統音楽院での上演が直前にキャンセルされたことなどでしょうか。

 
林 はい、そうです。

 パク・グニョン氏はコルモッキルの主宰・劇作家・演出家です。

 15年前に彼の『代代孫孫』をリーディング演出したことがあります。彼の戯曲の日本での初訳初演だと思います。

 
 
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昨今、世界各国でおきていることで気になることは何かありますか。

 
林 紛争の拡大と人種、宗教による差別、偏見の増幅。その根底に欲望のシステムである資本主義がグローバル化によってもはや国家や政治のコントロールを越え、世界を少数の富める者と多数の貧困層という形で分断しその対立が先鋭化しつつあることがあげられる。衝突の度合いはより深まりどこかでこの世界は破綻するのではないかと感じている。

 
 

---演劇を好きになったきっかけはなんですか。

 
林 いつ好きになったのかわかりません。好きかどうかもわかりません。やっていると苦しいことの方が多いです(笑)

 
 
---演劇を始めたきっかけはなんですか。

 
林 学生時代、劇団座長の友人に手伝いを頼まれたのですが、その後、彼が失踪し所属する役者を含め、全ての責任を背負うことになりました(笑)
 
 

---貴重なお話をいただきありがとうございました。

私も含めた、演劇を志す人たちにとって、得るところが大きいです。上演もとても楽しみにしています。

(文責:さたけれいこ)

2016年8月26日 (金)

板橋ビューネ2016参加劇団インタビュー:ペリカン船「『何で貴方は敵なんでしょう』。その言葉はサラッと放たれました。」

板橋ビューネ2016「ナンセンス」(http://itabashi-buhne.jimdo.com/)に参加する劇団に、劇団の軌跡や、みどころについて、別冊サブテレニアンがインタビューをいたしました。おのおのの劇団の魅力に気付かされる点が数多くありました。ぜひご一読ください。

 
ペリカン船「『何で貴方は敵なんでしょう』。その言葉はサラッと放たれました。」
 
 
板橋ビューネ2016:ペリカン船『戦場のピクニック』(U-25公演@東京・サブテレニアン:9月3日19:00~/4日15:00~、19:00~)
【U-25公演】・・・25歳以下の若手が古典戯曲に挑みます。U-25プロデュース:岡田和歌冶(雲の劇団雨蛙)

 

---このインタビューにお答えいただく方のお名前と劇団の中での役割 を教えてください。

 

A 劇団ペリカンの田中達也です。旗揚げメンバーです。 

 
 

---ペリカン船は田中さんの個人ユニットなのですね。劇団ペリカンのメンバー構成、人数、役割などを教えてください。 

 
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田中 劇団員は現在4名で、旗揚げ公演に参加して頂いた役者さんが入りたいと志願し新たに仲間が増えました。

 今年11月の第二回公演に向けてパワーアップした作品をお届けすべく絶賛稽古中です。(※)

※劇団ペリカン第2回公演

『残念ながら愛してる』

2016111日(火)~117日(月)

脚本・演出 南部鉄男

会場  SPACE梟門(きょうもん)

 

 

---劇団の旗揚げ公演について教えてください。

 

Tanaka_3 田中 去年11月に劇団を主宰の南部と共に旗揚げしました。『新宿さくらんぼ物語』という作品を書き下ろし、201511月に新宿のサンモールスタジオにて上演しました。サンモールスタジオでの劇団の旗揚げは自分達の劇団が初です。

 

 

 

---南部さんのことを教えてください。

 

田中 南部とは知り合いの舞台を観劇した後の打ち上げで、偶然隣の席になり意気投合しました。劇団ひまわり出身の俳優で、映像、舞台の仕事をしています。とても不思議な感性を持っている方です。今回は僕の個人ユニットなので関わっておりません。

 

 

---板橋ビューネ2016に参加した理由を教えてください。

 

田中 去年板橋ビューネ2015U-25に役者として参加したのですが、今回は演出として見方を変えて挑戦したいと思ったのです。 

 

 

---今回のテーマ「ナンセンス」について、感じたことを教えてください。

 

田中 ナンセンスとは何を持ってしてナンセンスなのかと、捉え方次第でとても広がりのある言葉だと思いました。

 

 

---なぜ「戦場のピクニック」という作品を選んだのか、作品について感じていたことを教えていただけますか。

 

田中 自分が初めて「戦場のピクニック」と出会ったのは、路上演劇です。去年開催された「多摩1キロフェス」という野外パフォーマンスのフェスティバルの中にあった演目の一つです。オムニバス形式の中に「戦場のピクニック」のワンシーンが抜粋されていました。劇中、「何で貴方は敵なんでしょう」という台詞があります。その言葉はサラッと放たれました。その時、一言でそれに対する答えは出せないなと感じました。

 

---今回のみどころを教えていただけますか。

 

田中 環境によって変化するものと普遍的なもの。

 

 

---戦場を肌で感じていたアラバールと、現在の私たちとでは、大きな乖離があるように私は思うのですが、田中さんはどう思われますか? 田中さんがおっしゃっている「環境によって変化するものと普遍的なもの」の中に答えがあると思うのですが、よろしければ、詳しく教えてください。

 

田中 現在の自分には戦争の実状を想像する事が限界で、戦場のリアルはその時代に生きて肌で感じている者だけが体現できると思います。しかし、今、自分が感じるのは、戦争とは色々な状況、環境に巻き込まれて生まれているものだということです。

 それを直接的に伝えるよりも、身近な物に例えて伝えたらどうなんだろうと思っています。身近な物から、戦争というシュチュエーションで意味が変わるもの、変わらないもの、という違いを楽しめたらと思っております。

 

---ありがとうございます。身近な物も、きっと戦場につながっているのでしょうね。そんな想像にはたらきかけるような舞台になりそうですね。田中さん個人のことについても、質問させてください。好きな劇団、劇作家、演出家、俳優など、演劇の分野でのお気に入りがありましたら教えていただけますか。

 

田中 つかこうへい さんです。

 

 

---好きな音楽、本、人物など、演劇以外の分野で影響を受けたもの(人物)がありましたら教えてください。

 

田中 尾崎豊 です。 

 

 

---写真では伺えない、田中さんのお人柄が表れていますね。お答えいただき誠にありがとうございました。上演を楽しみにしています。

(文責:さたけれいこ)

2016年8月25日 (木)

板橋ビューネ2016参加劇団インタビュー:ガクタミ「『カフカなのに笑える!!』そんな作品を目指しました。」

板橋ビューネ2016「ナンセンス」(http://itabashi-buhne.jimdo.com/)に参加する劇団に、劇団の軌跡や、みどころについて、別冊サブテレニアンがインタビューをいたしました。おのおのの劇団の魅力に気付かされる点が数多くありました。ぜひご一読ください。

 
ガクタミ「『カフカなのに笑える!!』そんな作品を目指しました。」
 
 
板橋ビューネ2016:ガクタミ『変身』(U-25公演@東京・サブテレニアン:9月3日19:00~/4日15:00~、19:00~)
【U-25公演】・・・25歳以下の若手が古典戯曲に挑みます。U-25プロデュース:岡田和歌冶(雲の劇団雨蛙)

 

---このインタビューにお答えいただく方のお名前と劇団の中での役割 を教えてください。

 

Kimg0788_4 MARCOです。ガクタミの演出を担当しています。

 

 

---劇団の旗揚げ公演について教えてください。

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MARCO 今回がこの劇団の初公演です。私の「カフカの作品がやりたい」という願いをきいて、集まってくれた人たちです。

 

 

 

---板橋ビューネ2016に参加した理由を教えてください。

 

MARCO 去年のUー25にも参加して、自分と同年代の演出家の作品に触発されました。自分ももっと表現を広げたいと思い、今年のUー25にも参加することにしました。

 

 

---去年のU-25では、「劇団さぼてん」として、岸田國士氏の「命を弄ぶ二人」を演出されましたね。

 

MARCO 劇団さぼてんは、U-25の為に集まったメンバーだったので、その後は解散という形をとりました。今以上に、演出について右も左も分からなかったので、メンバーの方には大変な思いをさせてしまったと思います。でも、あの経験がなければ、今ほどもっと演劇について学びたいとは思わなかったように思います。

 因みに、去年「劇団さぼてん」で出演した田中さんは、今年はペリカン船の演出家として、同じUー25に参加されています。

 

 

---今回のテーマ「ナンセンス」について、感じたことを教えてください。

 

MARCO 普段あまり馴染みがないので、焦りました。募集要項の例に挙げられていた作家の作品をいくつか読んでみました。ルイス・キャロルの不思議の国のアリスと鏡の国のアリスは家にあったので、「ナンセンスってなんだろう」と思いながら、読み直しました。いろんな作品を見てみると、ユーモア溢れる表現が沢山あって、舞台上で表現出来たら楽しそうだなと思いました。

 

 

---カフカの「変身」をえらんだ理由は何ですか。

MARCO 最初は作品を探すのに苦戦しました。U-25のプロデューサーの岡田和歌冶(雲の劇団雨蛙)さんからカフカもナンセンスだと聞いて、学生時代に思い入れのあったカフカの変身に決めました。

 

 

---今回のみどころを教えてください。

 

MARCO 「カフカなのに、笑える!!」、そんな作品を目指しました。グレーゴルがどんな姿になったのか。想像しながら楽しんで頂ければと思います。

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---好きな劇団、劇作家、演出家、俳優など、演劇の分野でのお気に入りがありましたら教え下ください。

 

MARCO 安部公房さん。現実とは違う世界観の中に、でも現実的なところがあって、グサリと心に来るような出来事が起こるところが好きです。

 学生時代、仲間と「半腸人類」を上演した時に、医者役で出たことがあるんです。その時は他の作品を探したりすることはなかったのですが、最近、作品を読んで「面白い!」と思いました。最近のマイブームは安部公房の作品探しです。

 

 

---好きな音楽、本、人物など、演劇以外の分野で影響を受けたもの(人物)がありましたら教えてください。

 

MARCO ドストエフスキーの「罪と罰」と太宰治の「人間失格」。

 かっこよくない、人としてダメな主人公の話が好きです。特に、飾りのない人間を描いているこの二つはお気に入りです。

 

 

---演劇を好きになったきっかけはなんですか。

 

MARCO 宝塚の舞台を見たことです。舞台って面白いと思ったのは、これがきっかけでした。

 題名は覚えていないのですが、和風ファンタジーの作品でした。確か小学校高学年くらいの時に見たと思います。実家が田舎で、プロの舞台に触れる機会が殆どなかったのですが、親を説得して、新幹線で博多座まで連れて行ってもらいました。最近では、いろいろな舞台を見られるので、宝塚は見に行かなくなってしまいました。最後に見たのは2年前くらいでしょうか。

 

 

 ---演劇を始めた頃、大変だったことはなんですか。

 

MARCO 高校生の頃、大会の前日に台本が出来上がり、当日も本番ギリギリまで稽古するということをよくしていました。

 

---大変な経験をされてきたのですね。今回はどんな舞台になるのでしょうね。お忙しいところ、質問にお答えいただき誠にありがとうございました。上演を楽しみにしております。

(文責:さたけれいこ)

2016年8月17日 (水)

板橋ビューネ2016参加劇団インタビュー:楽園王「楽園王にとってイヨネスコの『授業』は特別な作品です。自信があり、評価もされ、初演時から演出も変えていません。」

板橋ビューネ2016「ナンセンス」(http://itabashi-buhne.jimdo.com/)に参加する劇団に、劇団の軌跡や、みどころについて、別冊サブテレニアンがインタビューをいたしました。おのおのの劇団の魅力に気付かされる点が数多くありました。ぜひご一読ください。

第一弾は楽園王さんです。
 
「楽園王にとってイヨネスコの『授業』は特別な作品です。自信があり、評価もされ、初演時から演出も変えていません。」
 
板橋ビューネ2016:楽園王『授業』(@島根・チェリヴァホール:2016年8月27日19:00~/28日14:00~ @東京・サブテレニアン:9月8日20:00~/9日20:00~/10日15:00~,19:00~)
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---このインタビューにお答えいただく方のお名前と劇団の中での役割 を教えてください。

 

A 長堀です。楽園王の主宰をしております。楽園王は、劇作家としての自分の作品の発表の場としてスタートしたのですが、今では古典戯曲を演出することの方が多いです。

 

 

---楽園王の公演は、全て長堀さんが演出しているのですか? 長堀さんが出演したことはありますか?

 

長堀 演出はすべて僕です。昔は出演もしていました。旗揚げの作品「メタファンタジア」の初演は僕が主役でした。野田秀樹の影響が大きかったので、作・演出が出演もするものだと思っていました(笑)。

 

 

---劇団のメンバー構成、人数、役割などを教えてください。

 

長堀 劇団員制をとっていないので僕一人です。制作から何から劇団の運営に関わることは基本一人でやっています。でも仲間には恵まれているので、もちろん多くの支えがあって楽園王は公演できています。

 

 

---一番最初に上演した作品について教えてください。

 

長堀 高校演劇を除けば、「新・劇団女王の館」から依頼されて上演した「プルラウンド」という作品が小劇場のデビュー作です。今から30年以上前、東池袋にあったサンライズホールで上演しました。今でも僕の芝居に出てくれている植村せいさんがこの時も主役として出演しました。

 

 

---「プルラウンド」の作者を教えていただけますか? また、サンライズホールはどのような劇場だったのでしょうか?

 

長堀 「プルラウンド」は僕の作品です。利賀演出家コンクール(※)に出るまでは戯曲を書くことを中心に仕事をしていました。サンライズは当時ポピュラーな小劇場だったと思います。舞台奥がどんどん高くなっていて上にハケられる変わった劇場だったと思います。

※2008年より「利賀演劇人コンクール」に改称。

 

 

---劇団の代表作について教えてください。

 

長堀 今回上演することになるイヨネスコの「授業が自他共に認める代表作だと思います。賞(※)もいただいたし。

 僕が書いたオリジナルでは、「メタファンタジア」という旗揚げの作品は、その後も何度も上演し続けています。

 それと、奥村拓くんの一人芝居「華燭」も、何度も何度も上演しています。 「華燭」は大正から昭和初期に活躍されていた流行作家で舟橋聖一さんの短編小説です。小説として発表していますが、劇団の活動もなさっていた舟橋さんの、戯曲としても十分通用するものです。ついこの間も、劇場ではありませんが、「日本のラジオ」を主宰されている屋代さんの結婚披露宴で上演したばかりです。僕は稽古だけで本番は見てないのですが、好評だったみたいですよ。披露宴で30分も一人芝居に時間使うのは、けっこう心配だったんですが。

※2004年利賀演出家コンクール優秀演出家賞

 

 

---それは興味深い公演ですね。他にも思い出深い公演がありましたら教えてください。

 

長堀 25年間も劇団をやっているとたくさんありすぎて(笑)。利賀のコンクールで谷崎純一郎の「お国と五平」を上演した時は、仕込みからバラシまでずっと雨にやられた野外劇で、物凄く大変でしたね。

 夏なのに凄く寒くて、出演者に「今回は中止にします」と言える立場にないことを申し訳なく思って、それで「上に行ってやる」と思わせた(笑)。 

 でも今は「雨も含め、良かった」と言われる意味がよく分かる。好評でした。稽古場でも女優さんの演技に鳥肌が立つくらいだったので、コンクールでの上演に自信を持っていました。自分にとってエポックメイキングな作品が「お国と五平」です。

 

 

---「雨も含め、良かった」とおっしゃったのは、審査員の方ですか?

 

長堀 審査委員長の菅孝行さんです。菅さんからは、今でも「長堀くんはこの作品で賞を取るべきだった」と言って下さいます。でも問題もあり(※)失格でした(笑)。

  この翌年から、鈴木忠志さんは自分の演出作品として「お国と五平」を上演することになりますが、僕がコンクールで上演した影響は大きいと思っています。鈴木さん自身がそう言っていましたし。僕の作品でお国を演じた女優さんは、今でも鈴木さんが稽古場などで「長堀んとこにはすごい女優がいて」と言って、語り草になっているそうですよ。塩山さんという女優さんで、今はお休み中ですが、いつか復帰する予定です。あ、賞をいただいた「授業」初演時にはもちろん出演していました。

※ テキレジ(脚色)の問題。

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---板橋ビューネの今回のテーマ「ナンセンス」について、 感じたことを教えてください。

 

長堀 募集の時から掲げられている、「『ナンセンス』はアナーキズムである。」から始まる文章にはシビレましたね。よこたたかお君のセンスが光る一文。

 

 

---今回の『授業』のみどころを教えてください。

 

長堀 楽園王にとってイヨネスコの「授業」は特別な作品です。自信があり、評価もされ、初演時から演出も変えていません。12年間演出を変えずに上演し続けられる作品を持っているということが、楽園王の劇団としての実力も示していると思いますし、何より、誰が見ても面白い。もう本当、騙されたと思って是非時間作って足を運んでほしいと願っています。傑作です。久堂さんと杉村さんは初演時のメンバーで相変わらず素晴らしいですし、昨年の札幌公演からの村田さんと今回初合流の岩澤さんは楽園王の近作を支えてくれているレギュラー的存在で、今最も信頼している役者さんです。間違いない4人が演じています。

 

 

---私も拝見したことがありますが、何度でも見たい作品です。劇団の軌跡についての質問からは外れますが、昨今、日本でおきていることで気になることは何かありますか。

 

長堀 僕は今50歳で、半世紀この国の日常を生きて、そして平和を疑っていなかった。今、日本を政治的に経済的に牽引している方たちが起こそうとしている変化には、50年間感じたことのない不安を感じさせます。

 昔、手塚治虫や石ノ森章太郎が描いたSF漫画の世界が、冗談みたいに実現してきている感じ。人間は愚かだな、と感じます。

 でもその中で、特に落胆させるのは、テレビや新聞などの「報道」の墜落ですね。報道が権力におもねるばかりでなく、国民一人一人の声に耳を傾けてくれれば、純粋にジャーナリストとして立ち上がれば、少しは希望が見えるのに、と思っています。

 日本の報道と、同じ事柄を書いた外国の報道の差は、今や昔テレビで見た北朝鮮の人々の生活に匹敵する酷さで、最近では外国のニュースを拾わないと本当のことが分からない、なんてことになってしまっている。困ったものです。

 

 

---「一人一人の声に耳を傾けてくれれば」という思いは、長堀さんの今後の表現活動に影響していくのかもしれませんね。今回も、そしてこれからも、劇団のご活躍を楽しみにしています。貴重なお話をありがとうございました。

(文責:さたけれいこ)

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