板橋ビューネ2016参加劇団インタビュー:楽園王「楽園王にとってイヨネスコの『授業』は特別な作品です。自信があり、評価もされ、初演時から演出も変えていません。」
板橋ビューネ2016「ナンセンス」(http://itabashi-buhne.jimdo.com/)に参加する劇団に、劇団の軌跡や、みどころについて、別冊サブテレニアンがインタビューをいたしました。おのおのの劇団の魅力に気付かされる点が数多くありました。ぜひご一読ください。
---このインタビューにお答えいただく方のお名前と劇団の中での役割 を教えてください。
A 長堀です。楽園王の主宰をしております。楽園王は、劇作家としての自分の作品の発表の場としてスタートしたのですが、今では古典戯曲を演出することの方が多いです。
---楽園王の公演は、全て長堀さんが演出しているのですか? 長堀さんが出演したことはありますか?
長堀 演出はすべて僕です。昔は出演もしていました。旗揚げの作品「メタファンタジア」の初演は僕が主役でした。野田秀樹の影響が大きかったので、作・演出が出演もするものだと思っていました(笑)。
---劇団のメンバー構成、人数、役割などを教えてください。
長堀 劇団員制をとっていないので僕一人です。制作から何から劇団の運営に関わることは基本一人でやっています。でも仲間には恵まれているので、もちろん多くの支えがあって楽園王は公演できています。
---一番最初に上演した作品について教えてください。
長堀 高校演劇を除けば、「新・劇団女王の館」から依頼されて上演した「プルラウンド」という作品が小劇場のデビュー作です。今から30年以上前、東池袋にあったサンライズホールで上演しました。今でも僕の芝居に出てくれている植村せいさんがこの時も主役として出演しました。
---「プルラウンド」の作者を教えていただけますか? また、サンライズホールはどのような劇場だったのでしょうか?
長堀 「プルラウンド」は僕の作品です。利賀演出家コンクール(※)に出るまでは戯曲を書くことを中心に仕事をしていました。サンライズは当時ポピュラーな小劇場だったと思います。舞台奥がどんどん高くなっていて上にハケられる変わった劇場だったと思います。
※2008年より「利賀演劇人コンクール」に改称。
---劇団の代表作について教えてください。
長堀 今回上演することになるイヨネスコの「授業」が自他共に認める代表作だと思います。賞(※)もいただいたし。
僕が書いたオリジナルでは、「メタファンタジア」という旗揚げの作品は、その後も何度も上演し続けています。
それと、奥村拓くんの一人芝居「華燭」も、何度も何度も上演しています。 「華燭」は大正から昭和初期に活躍されていた流行作家で舟橋聖一さんの短編小説です。小説として発表していますが、劇団の活動もなさっていた舟橋さんの、戯曲としても十分通用するものです。ついこの間も、劇場ではありませんが、「日本のラジオ」を主宰されている屋代さんの結婚披露宴で上演したばかりです。僕は稽古だけで本番は見てないのですが、好評だったみたいですよ。披露宴で30分も一人芝居に時間使うのは、けっこう心配だったんですが。
※2004年利賀演出家コンクール優秀演出家賞
---それは興味深い公演ですね。他にも思い出深い公演がありましたら教えてください。
長堀 25年間も劇団をやっているとたくさんありすぎて(笑)。利賀のコンクールで谷崎純一郎の「お国と五平」を上演した時は、仕込みからバラシまでずっと雨にやられた野外劇で、物凄く大変でしたね。
夏なのに凄く寒くて、出演者に「今回は中止にします」と言える立場にないことを申し訳なく思って、それで「上に行ってやる」と思わせた(笑)。
でも今は「雨も含め、良かった」と言われる意味がよく分かる。好評でした。稽古場でも女優さんの演技に鳥肌が立つくらいだったので、コンクールでの上演に自信を持っていました。自分にとってエポックメイキングな作品が「お国と五平」です。
---「雨も含め、良かった」とおっしゃったのは、審査員の方ですか?
長堀 審査委員長の菅孝行さんです。菅さんからは、今でも「長堀くんはこの作品で賞を取るべきだった」と言って下さいます。でも問題もあり(※)失格でした(笑)。
この翌年から、鈴木忠志さんは自分の演出作品として「お国と五平」を上演することになりますが、僕がコンクールで上演した影響は大きいと思っています。鈴木さん自身がそう言っていましたし。僕の作品でお国を演じた女優さんは、今でも鈴木さんが稽古場などで「長堀んとこにはすごい女優がいて」と言って、語り草になっているそうですよ。塩山さんという女優さんで、今はお休み中ですが、いつか復帰する予定です。あ、賞をいただいた「授業」初演時にはもちろん出演していました。
※ テキレジ(脚色)の問題。
---板橋ビューネの今回のテーマ「ナンセンス」について、 感じたことを教えてください。
長堀 募集の時から掲げられている、「『ナンセンス』はアナーキズムである。」から始まる文章にはシビレましたね。よこたたかお君のセンスが光る一文。
---今回の『授業』のみどころを教えてください。
長堀 楽園王にとってイヨネスコの「授業」は特別な作品です。自信があり、評価もされ、初演時から演出も変えていません。12年間演出を変えずに上演し続けられる作品を持っているということが、楽園王の劇団としての実力も示していると思いますし、何より、誰が見ても面白い。もう本当、騙されたと思って是非時間作って足を運んでほしいと願っています。傑作です。久堂さんと杉村さんは初演時のメンバーで相変わらず素晴らしいですし、昨年の札幌公演からの村田さんと今回初合流の岩澤さんは楽園王の近作を支えてくれているレギュラー的存在で、今最も信頼している役者さんです。間違いない4人が演じています。
---私も拝見したことがありますが、何度でも見たい作品です。劇団の軌跡についての質問からは外れますが、昨今、日本でおきていることで気になることは何かありますか。
長堀 僕は今50歳で、半世紀この国の日常を生きて、そして平和を疑っていなかった。今、日本を政治的に経済的に牽引している方たちが起こそうとしている変化には、50年間感じたことのない不安を感じさせます。
昔、手塚治虫や石ノ森章太郎が描いたSF漫画の世界が、冗談みたいに実現してきている感じ。人間は愚かだな、と感じます。
でもその中で、特に落胆させるのは、テレビや新聞などの「報道」の墜落ですね。報道が権力におもねるばかりでなく、国民一人一人の声に耳を傾けてくれれば、純粋にジャーナリストとして立ち上がれば、少しは希望が見えるのに、と思っています。
日本の報道と、同じ事柄を書いた外国の報道の差は、今や昔テレビで見た北朝鮮の人々の生活に匹敵する酷さで、最近では外国のニュースを拾わないと本当のことが分からない、なんてことになってしまっている。困ったものです。
---「一人一人の声に耳を傾けてくれれば」という思いは、長堀さんの今後の表現活動に影響していくのかもしれませんね。今回も、そしてこれからも、劇団のご活躍を楽しみにしています。貴重なお話をありがとうございました。
(文責:さたけれいこ)
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