前衛に学ぶ―『砂のピエタ』―
あらゆる前衛の衰退が著しい。特に文学は売れ行きを、演劇は集客を強く必要とされ、実験精神を失いつつある。このような状況下で板橋区役所前に拠点を構える劇団サブテレニアンは飽くなき探求を続け、今、最も必要である分野の越境に挑戦を続ける。分野の越境は自らの演劇の相克が不可欠であり、賛同する他の分野の力も必要となる。
さたけれいこは、今日のパレスチナの動向を動機に、『シャティーラの四時間』を筆頭にジャン・ジュネの様々な戯曲、マフムード・ダルウィーシュの『アラブ、祈りとしての文学』など第二次世界大戦直後のテキストも参照し、『砂のピエタ』の構成・演出を果たした。
ここに必要なのは、かつてジュネを演じた大野一雄の薫陶を受け、現在は舞踏発生以前から舞踏の根底を知る及川廣信に教訓を得ている相良ゆみだった。つまり相良は舞踏でありつつも舞踏でなく、その為、演劇でなくても演劇で在り続ける演出に耐えることが可能になるのだ。
開場時から相良と俳優の山本啓介は舞台に蹲り、身を隠している。舞台の壁面に認識できない映像が投じられると、金の鬘を被り、赤いワンピースとハイヒールの相良が舞台を廻る。バッハの《シャコンヌ》がその悲劇性を強調する。テキストの朗読が断片的に続き、総ての衣装を取り除いて人間となった相良の動作を山本が模倣する。アフタートークでパレスチナ里親を続ける岡本達思が明かした死者の名前が記された巻物の上を進む映像と実体が交差する。相良は象徴的なポーズを一切しない。映像もまた抽象的だ。演劇でもダンスでもない一時間の舞台は難解ではなく、間接的に人間の絶望を伝えてくれる。
かつて人間は屠ることと葬ることによって、仲間を弔っていた。それが緩やかな曲線を経て第一次世界大戦を境に大量殺戮と人権擁護という極端な道に分岐した。ジュネがパレスチナ人を弔う時には、アルベール・カミュの『異邦人』が頭を過ぎったに違いない。家族でも同人種でも同国籍でもない者を屠り葬る恐怖。そこに襲ってくる悲劇は、海を隔てた遙か彼方のイスラエルの問題ではなく、我々の足元にも忍び寄っている。我々が前衛から学ぶことは、これからも多々ある。前衛を生み出すのは創作者だけではなく、立ち会う我々でもある。(八月三一日所見/サブテレニアン)
前衛に学ぶ―『砂のピエタ』―
宮田徹也
写真:飯村昭彦
MarginalMan02
SUBTERRANEAN Produce『砂のピエタ』
2014/8/30(土)19:30 31(日)14:30
原作 J.ジュネ(『シャティーラの四時間』『恋する虜』)
舞踏 相良ゆみ
俳優 山本啓介
声 名川伸子(青年劇場) 細川真知子
照明 赤井康弘
音響 山田尚古
構成・演出 さたけれいこ
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