『キル兄にゃとU子さん』アフタートーク2013/11/30(土) 柾木博行氏(シアターアーツ編集長)
ゲスト:柾木博行氏(シアターアーツ編集長)×赤井康弘(サブテレニアン・サイマル演劇団)司会:菅野直子氏(99roll、劇作家・演出家)
菅野 今回の企画について、赤井さんより再演にいたった経緯をお聞かせいただけますか?
赤井 この作品は2011年6月にサブテレニアンで初演して大きな反響を呼んだ作品です。震災や原発を扱っていますが、40年前からの視点も含めて、個人と政治の関わりという上でもアプローチができる脚本で、5年たっても10年経っても再演する価値がある作品だと思いました。ずっと再演したいと思ってはいたのですが、震災から2年、3年経っている状況や、福島の俳優ではなく東京と韓国の俳優でやるという枠組みでリライトして上演できないかと思い、企画が動きはじめました。
菅野 リライトにあたって、作者の大信さんとはどのような話をしながら進められたのでしょうか?
赤井 今お話したようなことや、今回のキャッチコピーである「我々は未来の被災者である」ということなどについて、お互い思っていることを話したりしました。
菅野 「1970年の女」は初演にはなかったキャラクターですね。太陽の塔をモチーフにした衣装が面白かったです。
赤井 はい。今回リライトした部分は主にそこですね。
菅野 柾木さんは「シアターアーツ」の編集長を務めていらっしゃいますが、初演の脚本は「シアターアーツ」に掲載されましたね?
柾木 はい。初演の脚本を掲載したのは第48号ですが、当時の編集長は西堂行人でした。満塁鳥王一座のことは当時は東京ではほとんど知られていなかったと思うのですが、たまたま西堂が観に行ったのがきっかけで、彼はその場で「掲載したい」と思ったそうです。シアターアーツでは、その後も演劇と震災の関わりについて、ずっと問題に取り組んできました。
菅野 今日は上演をご覧になっていかがでしたか?
柾木 「1970年の女」という全く新しいキャラクターが出てきて、ラストががらりと変わったことが印象に残りました。初演では音楽を演奏して、福島の地元紙を読み上げたシーンを通り越して、それが未来へ続いていることを示していました。福島の出来事はこれからもずっと続いていくと。それが今回は1970年の女の視点から出来事を俯瞰する構造になっていて、地域性から少し離れて普遍性を打ち出したいという意志を感じました。
菅野 今回はクォン・ナヨンさんを韓国から招いて上演されましたが、創作の過程についてお聞かせいただけますか?
赤井 ナヨンが韓国から来日した際、まず仙台空港に来てもらいました。その後、仙台で津波の被害にあったところや、南相馬、浪江町など被災地をめぐりました。ナヨンも、韓国では YouTube などの映像を通じて被災地の状況を見てはいたのですが、実際に訪れたことはなかったので。その後、東京に戻って稽古に入りました。
菅野 ナヨンさん、今回参加した経緯についてお聞かせいただけますか?
ナヨン 日本に初めて来たのは2001年です。文化庁のスカラシップで若手芸術家への奨学金をいただいて、劇団エルムというところで勉強させてもらいました。 その後も俳優の活動は続けていたのですが、赤井さんとは昨年の韓国の小劇場フェスティバルで出会って、気が合っていろんなお話をする中で「いつか日本で一緒にお芝居をしましょう」と言ってくれました。そういう話はお酒を飲みながらの話なのでなかなか実現しないのですが、今回は本当に実現してとても嬉しかったです。
出演を決めたのは、脚本自体に興味があったからというのが大きな理由です。 福島でおこった話ですが、原発事故を「キル兄にゃ」というメタファーを使って表現していて、福島だけの話にとどまらない広がりを感じました。世界中どこの国でも、自然や環境の問題があり、大事な人がいなくなるという状況はどこでもおこり得ることだと思って興味を持ちました。今回出演して、日本語で演じなくてはいけなかったのですごく苦労しました。出演を決めたときは、日本語だけで演じることになるとは思っていなかったのです。
菅野 ナヨンさんが日本に来ることを韓国では心配する人がいたと伺いました。
ナヨン 向こうでは「 いつ、どこで放射能の影響が出るかわからないなので行かないでほしい」という人がいました。でも、私はこれは私の人生の中の一部だと思って来ました。
菅野 貴重なお話をありがとうございました。この作品は私も初演の時に拝見していて、とても大好きな作品です。本日ご覧いただいたお客様も、感想をツイッターやフェイスブックにあげたり、お友達に感想など話して広めていただけたらよいな、と思います。本日は最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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