満塁鳥王一座『白鳥の歌』SENTIVAL!2013参加〜大信ペリカンインタヴュー
満塁鳥王一座『白鳥の歌』 SENTIVAL!2013 参加
5/25(土) 19:00★・26(日) 15:00
★終演後トークあり
※開場は開演の30分前
前売2000円 当日2500円 学生1000円
作:アントン・チェーホフ
構成・演出:大信ペリカン
http://subterranean.jp/event.html#tori
---2011年6月にSUBTERRRANEAN で上演された「キル兄にゃとU子さん」(SENTIVAL!2011参加)は評判を呼び、横浜、青森、仙台、北九州と各地で公演やリーディングが行われました。各地の反応はどのようなものでしたか? 印象に残った出会いなどございましたらお聞かせください。
思い出深いのは北九州芸術劇場で行ったリーディングです。時期的に震災からほぼ一年後の3月10日だったんですよ。3.11から一年経って、震災を振り返るという企画で、北九州の役者さんたちとリーディングを行ったんです。この作品は震災の当事者性が作品の軸になっているのですが、ここではそれを分かち合うのはやめようと思いました。役者さんだからそういう演技はできるのですが、北九州の人が感じた震災に対する思いを表現したくて、短い時間でしたがお互い話し合いながら作品を作りました。
終演後に飛ぶ劇場の泊篤志さんが出演者にインタビューをしてくれたのですが、ある役者が感極まって泣いてしまったんですね。舞台袖でその様子を見ながら、当事者性ではない何かを、役者と作家の間で分かち合えたようで、印象深かったですね。役者と作家の間に震災があって、距離感もある中で、それぞれ震災をどう捉えるか、ということを表現できたと思います。
---2012年11月には、満塁鳥王一座が福島県外の劇団を招いて行う「卒啄之機プログラム」の第一弾として、私たちサイマル演劇団の公演と「キル兄にゃとU子さん」のリーディングを福島市飯坂温泉の十間蔵で同時上演しました。震災後、はじめての福島公演となったわけですが、東日本大震災や東京電力の原発事故を直接描いた作品を福島のお客様の前で上演することに抵抗はありませんでしたか?
僕たちが震災を扱う芝居をやるのは「業」だと思いながらやっています。被災地でこの作品を上演することに、「そこまで業が強くてよいのかな」という思いはありました。実際、震災を思い出したという感想が多かったです。思い出した時に嫌悪感を持ってほしくないという気持ちのせめぎあいはありました。
ただ、上演する土地が被災地なのか、そうでないのかという違いは感じていません。あくまで「私は(震災を)こう受けとめた」という話だから。
---なるほど。震災を扱うことは「業」だとおっしゃいましたが、大信さんは劇団の主宰者であると同時に、今を生きる劇作家でもあるので、震災を扱ってほしいというよりも、震災が引き金となって浮き彫りになった現代の不条理と向き合うような作品を作ってほしいと私は思っています。
今回上演する『白鳥の歌』は、ある老俳優との出逢いがきっかけになったということですね?
はい。福島演劇研究会という劇団の創始者の宍戸さんという、お年は80歳くらいの方から、若い人と一緒に演劇祭のようなことをやりたいとお声をかけていただいたんです。いろいろ話をしているうちに、その方が若い頃に演じたチェーホフの『白鳥の歌』の話になりまして。「三回演じたことがあるけれども、未だにあの作品のことがよく分からない。ぜひまたやってみたい」とおっしゃっていて。『白鳥の歌』は、道化役に徹するようになってしまった人間不信の老俳優が、舞台の中でかつての俳優としての輝きを取り戻していくという話で、なおかつ「白鳥の歌」が「辞世の句」という意味もあるので、「このじいさん、もう死ぬ気なんじゃないだろうか。ぜひ生きているうちにやらしてあげたい」と思い、「是非一緒にやりませんか」と声をかけました。
結局今回の出演は実現しなかったのですが、どうしても『白鳥の歌』をやりたくなってしまって。
---企画として『白鳥の歌』は残したということですね。この作品は老俳優とプロンプターの二人芝居ですよね?
はい。それを今回は若い俳優五人で演じます。「なぜチェーホフはこの作品を書いたのか」というのが今回のテーマでもあって。書簡や作品評などを交えながら、僕たちなりの解釈を提示したいと思っています。
---この作品は、チェーホフの若い頃の作品だということですね。
ええ。26歳から27歳の時の作品です。若い頃、チェーホフは演劇ではヴォードヴィル、小説では短い小説を新聞などにたくさん書いていたんですが、そんな時、ある先輩作家から手紙をもらったんです。その頃のロシアでは、長編小説が正統派で、チェーホフが書いていたような短編小説は文学として評価されていなくて。「君は才能があるからちゃんとした小説を書け」と。
この頃はまだ作家と医者との二足のわらじで、名前も、医者の時はドクトル・チェーホフという本名だったのですが、小説を書くときはふざけたペンネームをいくつも持っていて、書くたびに変えていたくらいで。それを、きちんと本名で小説に向き合うターニングポイントになった作品が、この『白鳥の歌』だろう、というのが僕たちの見解なんです。
この作品に登場する老俳優は、「カルカス」というトロイア戦争の預言をした預言者の格好をして出てくるんですが、まるでチェーホフ自身に預言をしに来たようにも読める。道化に徹する老俳優が、ヴォードヴィルを書いているチェーホフの姿と結びつき、老俳優がチェーホフのなれの果てのように見えてくる。そんなチェーホフに、「このままいくとお前はこうなってしまうよ」という啓示がこめられているように思えます。
チェーホフの短編は、純粋に面白い作品がたくさんあるのですが、この作品は宍戸さんの言う通り「分からなさ」の残る、不思議な作品ですね。
ー出演される俳優さんが何を考えて演じているのかも気になります。
一人一人、だいぶ読み込んでいるようですよ。
---それは劇場でのお楽しみといことですね。今まで知らなかったチェーホフとの出会いがありそうです。
今回はお忙しいところどうもありがとうございました。
(2013年4月21日 聞き手・さたけれいこ)
大信ペリカン
満塁鳥王一座主宰。作家、演出家。75年兵庫県生れ。大学在学中の96年に福島市で満塁鳥王一座を旗揚げ。野外テントを出発点に、アングラ→現代口語→対話を廃したモノローグ演劇と、「今ここにあるべき演劇の姿」を模索している。近年の代表作はギリシア悲劇を題材にモノローグによる多角的な視点を構築した「エレクトラ」、東京電力第一原子力発電所事故におけるフクシマのとまどいを描いた「キル兄にゃとU子さん」など。
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