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2011年8月17日 (水)

映画「福島さん」荻野欣士郎監督インタビュー

 福島第一原子力発電所の事故を受けて作られた映画「福島さん」がサブテレニアンで上映されます。事故の後すぐに映画を撮ることが決まり、震災の混乱が続く中、福島県で撮影が行われたそうです。新宿の野口英世記念館で行われた試写会の後、荻野監督にお話を伺いました。

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荻野欣士郎プロフィール:日本映画監督協会所属。主な映画作品:「私の骨」(原作/高橋克彦、出演/田口トモロヲ、石立鉄男他)、「ほのかの書」《山梨映画祭招待》(出演/吉村涼、霧島れいか、根岸季衣、小野寺昭)、「浅草堂酔夢譚」《1シーン1カット世界最長映画(99分)》《モナコ国際映画祭Independent Spirit Award受賞》(出演/堀川りょう、高野志穂、大堀恵、BORO)他。「浅草堂酔夢譚」が今年9月18日に「したまちコメディ映画祭」にて、9月3日から9日まで高槻セレクトシネマにて「福島さん」と同時上映が決まっている。

---さきほどの試写会の挨拶で、俳優の神楽坂さんが「原発の事故が起こった2週間後に監督から『映画を撮るぞ』という電話がかかってきてきた」とおっしゃっておられましたが、「福島さん」を撮るにいたった経緯についてお聞かせいただけますか?

 僕が監督として最初に仕事をした映画が「原子力は安全だ」という、原発のPRの映画だったんです。その時は原子力に対してある程度の知識も学んで、「安全だ」と思い込んでいたんですよね。
 ところが事故があっていろんなことが起きてきた時に、「自分がもっと研究すればよかったのに」という反省がありまして。「これは今やらなきゃいけない」と思ったんです。
 それは事故の後、すぐのことです。水道水が汚染された騒ぎがありましたよね。水がみんな買われちゃったりとか。そうした時に強く思ったんです。
 それでも、皆で話し合った時はいろいろ悩みました。やるべきか、やらないべきか。そんな中、いわき出身の、映画で福島さんの妹役を演じた女優の佐河が、泣きながら「やりたい」と言った時に、「ああ、やるべきなんだ」と、強く思いました。

---原発のPRの映画を撮られた経験をずっと引きずっていらっしゃったんですね。

 避難の仕方なども、確かにマニュアル通りにやってはいるんですよね。ただ、そのマニュアルがあまりに安直なマニュアルで。「ちゃんと考えられていたらよかったのに」と思います。
 企業の内部では、自分たちが研究していることが世の中のためだと思っている人がたくさんいて、それで僕も納得していました。いいことをしたと思っていたんです。「事故があっても逃げ方も教えたし、不安はふりほどいた」と。でもそれは間違いだったんですね。
 まさに事故が起きて、「あれは間違っていた」と思った時に、宣伝を手伝った人間として罪を感じたんです。

---撮影は福島県でされたそうですが、それはいつ頃のことですか? 桜の舞うシーンが印象的でしたが、それも福島県なのですか?

 桜のシーンは、原発から35キロくらい離れたところで撮影しました。
 撮影をした時期はちょうどGWの頃だったんですが、その頃はまだ震災後の混乱でごちゃごちゃしていたので、撮影しに行くのも大変だったんですよ。許可もとれにくくて。仕事以外で、興味があるからという理由で東北に行く人もたくさんいました。
 ただ、福島はゴールデンウィークなのにすごく空いていました。びっくりするくらい。ちょうど風評被害が出始めたころで。

---映画でも「風評被害」を揶揄するような表現もあったように感じました。「風評被害」やそれに流される一般人について、何か思うところはありますか?

 情報化社会で大切なことは、正しい情報を手に入れることだと思います。多くの人はマスコミに対してただ振り回されているだけで、自分の意志は無くなっていると思いますね。

---野口英世記念館でも撮影をされたんですね?


 この映画を撮ろうと考えていた時に、会津の野口英世記念館が風評被害にあっているという新聞記事を見たんですよ。それで野口英世記念館に連絡をしたら、撮影をさせてくれることになりました。野口英世は研究をしつくした人だと思っていたので、「これは今の世の中に必要だろう」と思ったんです。そこから、映画で原発事故を扱うこととうまく結びついていった感じですね。
 野口英世は、千円札にもなっていますがそれほどよく知られてはいないんですよね。囲炉裏に落ちて手を火傷したとか、そんなことくらいで。
 よく日本人は勤勉だといいますが、「本当にそうだろうか」と思うことがあります。今はそこまで勤勉な気がしません。それは時代なのかもしれない。野口英世の時代は、日本が世界に飛び立っていこうという意思があった。しかし、今の日本人にはそのような考えはないと思います。大義が無いから勤勉さも無くなって来ている…それが今の日本だと思います。大義というのが野口英世にはあった。ところが東電は自分への欲求ばかりだった気がします。そんなことも考えながら野口英世を扱いました。
 かつては日本から野口英世のような勤勉な人間で、世界に貢献した人間が出たのです。同じ日本人なのだから、これからもまだまだ可能性はあると信じています。

---日本人のものづくりの技術は、世界にも誇れると思うのに、原発の事故が起こってしまったことが無念でなりません。

 原発には基準値というのがあって、一方が危険ぎりぎり、一方が完全に安全だとすると、「安全な方はお金がかかるから、この辺りを基準値にしておく」としているんです。そうした責任を考える中で、昔の野口英世のように研究をしていれば、あのような事故はなかったのではないかと思います。
 彼らは「自分たちが日本を動かしている企業だ」と理解しているんですよね。それを脳内体験として描いたんですけどね。最初はコメディにしようと思っていたんです。あまりダークなものにせずに、ブラックユーモアの作品にしようと思ってたんですけど、そうはならなかったですね。

---東さや香さん演じる福島さんの語りには、強いメッセージがこめられていたように感じました。

 僕は何で映画を撮っているかというと、次の世代の人たちに見てもらうために撮っているようなものです。映画は100年生きると思っているんで。「100年後に見てもちゃんと生きているような映画を作りたい」という考え方でいるんですよ。
 福島でおきた原発事故は、日本の歴史の中でも初に近いことだと思ったんです。こういった人災があったことを次にも伝えていこうと思いました。
 ただ、この映画は誰も非難するのはやめようと思いました。
語りの中で野口英世の墓に刻まれている言葉を引用しましたが、その言葉のように、次の世代に何か残すためにみな生きているという考えでいきたいな、と思って。

---映画を撮る前と撮り終えた後で、何か変わったことはありますか?まさに試写会の日の今朝、映画の編集を終えたとのことですが。

 自分の浅はかさを感じるんですよね。一つ掴むと深さを感じるもので。もっと、この時代の「うねり」というものを考えたいと思っています。「小手先ではない、もっと本質的な日本の問題を考えたい」と。
 そして国を作っているのは人間です。もっと日本人を知らないといけないと思いました。だって日本映画しか撮れないのですから。
 今後は「福島さん2」に取り組みたいと思います。原発問題を扱っている映画は、原発状況によってすぐに「古く」なってしまいます。「福島さん」シリーズを撮って、原発問題がどのようになっていくのか、その歴史を追っていきたいですね。

---それは楽しみです。「福島さん2」はぜひ見てみたいです。原発問題の歴史を追うと、まさに日本人の実体があぶりだされるような映画になりそうですね。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

「福島さん」
「放射性物質」である福島さん。福島さんは多くの人から差別を受けていた。そんなある日、福島さんの妹がやってくる。新しい生命を宿した妹は福島さんに苦しみをぶつける。一方、サッカーに興じるエネルギー会社関係、永田町関係、マスコミ関係の人間たち。それぞれの立場を守ろうと「秘密の会議」をしていた。それは、放射線を出す福島さんに責任を押し付けようとする会議だった。
監 督:荻野欣士郎
出 演:東さや香、本多秀成、佐河ゆい、長谷川貴章 他
時 間:37分

今後の上映スケジュール
8月 全10回   スカパー!シアター・テレビジョン。「STOP無関心!」デモドキュメンタリー同時放送。
9月03~09日  大阪「高槻セレクトシネマ」にてレイトショー上映。「浅草堂酔夢譚」との同時上映。
09月21~23日 サブテレニアンにて。演劇・パフォーマンスのコラボ企画。「世界で一番美しい辞書」と同時上映
10月06~10日 シアターブラッツにて。
10月08日(土) 熱海オンたま「第3回あたみ映画感!」参加。「しゃったーず4」/「福島さん」の2本立て。

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